2021年04月26日
内外政治経済
研究員
芳賀 裕理
米中対立が激化する中、メディアでは「デカップリング(分断)」というキーワードが連日伝えられている。また、米軍当局者からは「6年以内」の台湾有事を想定する発言が飛び出すなど、緊迫度が高まっている。
その一方で、ワシントンの外交専門家の間では、米中衝突回避が米国の利益になるという穏健的な主張も少なくない。筆者は米有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)が2021年4月6日に主催したセミナー「Towards a Better China Strategy(より良い対中戦略に向けて)」にリモート参加。穏健派の中国・アジア専門家で外交経験の豊富なライアン・ハス氏の主張に耳を傾けた。
(出所)ライアン・ハス氏のツイッター(@ryanl_hass)
Ryan Hass氏(ライアン・ハス) 米ブルッキングス研究所シニアフェロー(外交政策) ワシントン州出身。2001年ワシントン大卒、ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院(SAIS)を経て国務省入り。在ソウル、在北京などの米大使館勤務を経て、2013~2017年国家安全保障会議(NSC)で中国などを担当。 |
2021年3月18日、米アラスカ州アンカレジで、バイデン政権発足後初の米中外交トップによる直接会談が開かれた。冒頭から厳しい応酬が繰り広げられ、激しい非難合戦が全世界に放映された。
報道によると、人権や安全保障の分野では双方の主張は平行線をたどった。気候変動など一部では接点を探る動きもあったというが、米中双方の隔たりは大きく、次回協議のメドすら立っていないと伝えられる。
米中外交トップ会談における対立点
(出所)各種報道を基に筆者
ハス氏はこの会談について、「(米中)対立が公衆の面前にさらされたことは異例だが、重要なことは両国が8時間以上をともに過ごし、あらゆる課題について意見を交わしたことだ」とその意義を指摘した。
その上でハス氏は、会談でとり上げられた地球温暖化やイラン、ミャンマー、北朝鮮などの問題は両国に影響を及ぼすと強調。しかも米中がお互いを好きか嫌いにかかわらず、両国はお互いに束縛・影響し合うと指摘した。
ではなぜ、米中は対決姿勢を強めているのか。この疑問に対し、ハス氏は両国ともに「自らの政治制度こそ最高水準にある」「世界という舞台で指導力を発揮する資格がある」と確信するからだと解説した。
このため、ハス氏は「(米中)どちらも従属的な役割を受け入れることは非常に難しい」と述べ、米中対立の長期化を予測した。さらに米中が応酬を続けていくと、「米国は友好・同盟国との間のギャップを広げてしまうだろう」と指摘した。名指しこそしていないが、中国との経済関係が強い日本などを念頭に置いた発言とみられる。
その上で、ハス氏は「米国が中国のイニシアチブを妨害するよりも、国内の状況改善に焦点を合わせるならば、経済でも統治問題でも中国を凌駕し、より大きな成功を収めるだろう」と提唱した。これはバイデン政権が内政重視の姿勢で対中問題に臨むべきだとの発言であり、対中強硬派などからは異論が出るのではないかと思う。
ライアン・ハス氏の近著「STRONGER」(2021年3月)
(出所)Yale UNIVERSITY PRESS
芳賀 裕理